春の香りが風に乗り鼻孔をくすぐる4月中旬。 俺は交差点に立っていた。 そこは深夜だと言うのに車通りが激しい幹線道路の一画 目の前には生々しい傷痕が残るひしゃげたガードレール。その袂(たもと)に添えられているのは色とりどりの花束。横には猫やウサギを型どった愛らしい人形たちが静かに座っている。 俺はそこに一輪のカーネーションを添える。 あの人が好きだった花だ。 自然と拳に力が入る ふつふつとドス黒い感情がせり上がってくる。 8年前… この場所で二つの命が失われた 旦那である俺のダチを迎えに行く途中の事故 突っ込んできた鉄の塊は、いとも簡単に二人の命を奪い去っていった。 今も眼を閉じると瞼の裏側にマミの姿が映る。 『にぃにぃ♪』と言いながらあどけない笑顔で俺の膝にしがみついてくる姿 …まだ2歳になったばかりだった筈だ 爪が手の平に食い込み 滲みでる鮮血がアスファルトを紅く染める。 『比呂くんは良いコだからすぐにイイ人見つかるよ。』 そう言いながら、小さな笑みを溢(こぼ)す沙織さん… 歳は確か一つ上だったな あのはにかんだ笑みが、俺は堪らなく好きだった。 どことなく奈緒と似た柔らかい雰囲気に俺は惹かれていたんだと思う。 なんでだ? なんであの二人が死ななきゃいけなかった? 春の夜風が俺の身体をすり抜ける。暖かさに包まれていながらも 俺の疑問は氷づけにされたままだ。誰も答える者はいない。 空を見上げると 今にも泣き出しそうな曇空 視線をカーネーションに落とす刹那…一瞬、視界の隅に見慣れた姿が映った気がした。 そんな訳が無い そう思いながらも、もう一度 その方向へ視線をくゆらせる 「…!?」 見間違いでも幻でも無い それは確かにそこに立っていた 哀しそうな表情で花束を見る男 「アツ!?」 咄嗟にそう叫ぶと親友の姿は一瞬微笑みを浮かべた後、陽炎の様に周囲へと消えていった 「…俺は…」 そういいかけて俺は口をつぐむ ビッグスクーターに鍵を差し込みセルを回す。同時に響くエンジン音。静寂を切り裂くその音は、あいつが残した感情にも似ていた story.10 雨の中 傘もささずに ※比較的長編となりますので、月一ペースで更新して行こうと思っています。もし良ければご観覧下さい。 [先頭ページを開く] [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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