IN TO THE DARK

雨の中、傘もささずに
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霊安室に入ると初老の女性がパイプ椅子に力無く座っていた。
アツムの母親だ。
俺は小さく会釈し純白のシートがかけられた親友の元へ歩を進める

簡素なベッドで目をあけながら眠る“アツム”

事故現場近くの山林で首を吊っているのを、山岳警備員によって発見されたそうだ


『俺、結婚するんだ』

そう言いながら照れ臭そうに笑うアツム。

その表情が瞼の裏に蘇る

子供が産まれた時も、「親父になったから俺も大人にならなきゃな」なんて気恥ずかしそうに笑う顔…そんな笑顔が今でも焼き付いている

その笑顔が消え去ったのは2ヶ月前の事故からだ…

アツムを迎えに行く途中の交差点…信号無視してきた鉄の塊が嫁さんと子供の命を奪った…あの事故

『俺が…俺が悪いんだ…俺が死ねば良かったんだ…俺が俺が俺が!』


どれだけ「違う」のだと否定しただろう

「オマエのせいじゃない」
何度、アイツにそう言い聞かせただろう


だけど
俺たちの言葉はアツムには届かなかった



「おい?馬鹿じゃねぇのオマエ。いつまで寝てんの?早く起きろって…起きろっつってんだろうがッッ」

叫ぶことしかできなかった
言葉で否定しなきゃおしつぶされそうだった。
そうしなければ目から溢れる雫に全て肯定される気がした…


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