IN TO THE DARK

病原体
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東京に上京した1、2年は 長期の休みさえ見つけては実家に帰省していた。別段、ホームシックになった訳じゃない。今思うと岩手の片田舎から出てきた俺に東京の風はいまいち合わなかったのかもしれない。

あれは高校を卒業して1年目の夏だった。

駅に降り立ち、ホームを抜けて故郷の風を肌で感じた時だった。一瞬遠くの景色が揺らいだ後、寒気が俺の身体を抜けていった。

季節は夏。
駅前の温度計を見やると38度表示。木陰に入らなければ暑さは東京と変わらない。

・・・だが

炎天下の中、何故か背中を冷たい汗が滑り落ちる。

別段、風景も俺が上京した時と何ら変わりは無い。変わったとすれば白一色に染められた山肌が瑞々しい緑色に変化した位だろうか。

だが何故だろう
先ほどから寒気と共に、どこか違和感を感じてならない

たった数ヶ月の間、留守にしていただけなのに どこか見知らぬ土地に降り立った様な気さえする。

思わず肩に掛けたショルダーバックの紐を強く握りしめる。
何故だろう。震えが止まらない。

ホームを抜ける人々の奇怪な視線を意識する余裕すらない。不安と恐怖が綯(な)い交ぜになった不可思議な感情が俺の身体を硬直させる。


不意に甲高いクラクションの音が鼓膜に響いた。

善之(仮名)だ
中学時代からの友人だ
運転席の窓から見慣れた顔を覗かせている。

その瞬間、嘘の様に身体が軽くなった。

「なんだったんだ。今のは・・・か」

自問しても回答は出ない
疑念を残しつつも俺は善之の車に乗り込み、実家へと向かった。








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