IN TO THE DARK

憑依
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14インチのモニターの向こうでは霊能者らしき人物と数人が神妙な面持ちで座している

その中で取り分け目を惹いたのが、いつも奇怪な挙動で周囲を笑わせているお笑い芸人の姿だ。いつもの明るさなど皆無、表情は蒼白で目はせわしなく周囲を見渡している。


ナレーションによると、そこは都内T地区にある廃墟。心霊スポットとして名高い場所だ。


流れが読めてきた
このお笑い芸人に、そこに存在する霊を“降ろす”つもりなのだ

降霊術もしくは交霊術
簡単に言ってしまえば人為的に憑依させる、もしくは取り憑かせて霊と交流するといった意味合いだ。



興味深々にモニターへ釘付けになる俺とは対照的に、松戸は興味なさげに視線を漂わせている

「危ないなぁ。止めた方がいいと思うけど…ってコレ録画だよねぇ。もう遅いか…」


その言葉に俺は言い知れぬ恐怖を感じた。
聞かなければいいものを、俺の口からは松戸へと問い掛けが滑りだす

「…どういう意味だ?」

「どういう意味も何も、そのままの意味だよ。」


松戸は右手に持っていた缶ビールを一気に煽ると、静かに言葉を繋げた。

「お前にはまだみえないのかもね。そこに映ってる霊体は今までに何人も喰い殺してる。餌が自分から飛び込んできたってほくそ笑んでるよ。狩り場にノコノコ出掛けるなんて愚の骨頂だね。」


ゾクリとした
そういえば、今まで都内近郊のあらゆる心霊スポットを訪れたのだが、この場所だけは未だ行っていない事に気付く。
それが内在する恐怖を増幅させた


「けど大丈夫だろ?霊能力者が付いてるんだから。」

その言葉に反応するように松戸は高笑いを上げた

「アハハ(笑)。こんなどこの馬の骨かもわからない奴に祓えるかよ。断言してもいい。絶対に無理だね。そもそも、こんな“危ない奴”がいる所に足を運ぶ物好きはいないさ。余程、自分の力を過信してる馬鹿じゃない限りはね。」

不意に窓の隙間から生温い風が入り込み俺たちの間をすり抜ける。

「噛み癖のついた猛犬は逃げればどこまでも追いかけてくる。断言してやるよ、こいつらじゃ絶対に逃げ切れないね(笑)。」


…という事は
この霊能力者は“偽物”という訳か

俺の呟きに松戸は応えず
たださっきと同じように虚ろな視線でモニターを眺めていた



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