現代怪談vol.1

土蔵
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俺が中学二年のときの話。体育祭の日の朝、体操着を着て弁当の入った袋を提げて、きげんよく通学路を学校へ向かっていた。途中に、住宅街には似つかわしくない白壁の土蔵が一軒建ってる。入口は、道路がわからは見えない中庭に面していて、白壁のずっと上のほうに明かり取りの小さな窓が一つあるだけ。何気なくその窓を見上げると、無表情な男が中から道路を見下ろしていて、俺と視線が合った。変だなと思ったのは、ふつう人間が知らない人とうっかり視線が合ってしまったら、反射的に目をそらすか、人によっては微笑むか睨みつけるかするだろうと思うのだけれど、その人はまったくの無表情で、じっと俺の目を見つめ続けていたのだ。すごく色白で、きれいに頭を散髪した、30前後の男だった。20秒ほど見つめ合っていた。やがて俺のほうから視線を逸らして、なにごともなく学校に着いた。ふつう土蔵の明かり取りの窓の内側には、階段も何もない、ということを知ったのは、ずっとあとの事だ。もしも暗い夜道で同じことがあったら、たぶん悲鳴を上げて逃げ出していただろう。そのていどの不気味さは、そのときも感じていた。実際には、雲一つなくよく晴れた明るい朝で、人通りもないわけではなかった。だからそのまま登校したのだ。しかしいま思い出すと、明るい街並みとあの無表情な顔との対比に、かえって寒々しさを感じてしまう。
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