二次創作

パ・ラ・ノ・イ・ア
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どうやら私は眠っていたようだ。

「おはようございます、パチュリーさま。」

朝だろうか。
いや、夜かもしれない。
窓の無い図書館では、外を確認する事が出来ない。

時計は無い。
そんなものに縛られたくなかった。私は時間と云うものが嫌いなのだ。

差し出された紅茶を一口。
ティーカップを握る手に、また新な皺が刻まれていた。


時間と云うものは、嫌いだ。



___paranoia.___




夢の感覚が、まだ、身体から抜けない。歳をとったものだ。
魔女とはいえ、流れる月日に抗えるものではない。

居心地の良い夢だった。
遠い遠い昔の夢だった。
私が生きてきた、永い時の中で初めて愛した人の夢。
これから先、私は、この人ほど何かを愛す事はないだろう。

__彼女は、その短い生涯を「魔法使い」として貫いた。魔女では無く、人間として生きる事を選んだのだった。

「貴方は、長生きをしたいとか思わないの?」

いつか、そんな事を聞いた。
この、馬鹿馬鹿しくも楽しい日々がいつまでも続けばいいと思った。失う事が怖くて、どうしようもなかった。

「別に。」

それ以上、彼女は口を開かなかった。

その時はまだ、私と彼女に外見での大差は無かった。
猫の毛のような金髪、華奢な腕、野心の宿る瞳。すべてに私は惹かれていた。


それから幾年月。

少女の面影を残しつつ、彼女は立派な女性に成った。私はというと、低身長は相変わらずで、少しばかり顔付きが変わった位だった。
彼女は、神社の巫女と共に過ごす時間が長くなった。私の所へ来る事は少なくなっていた。彼女が離れていく。数冊ずつ返される本が、それを物語っているようだった。

私の楽しみは次第に無くなっていった。スペルカードを放つような事もそうそうは起こらなかったので、老いが急速に私を蝕んでく。それでも、人間と比べるとやはりまだ私は幼かった。

一冊、また一冊。
次々に本が返却されていく。

「嘘つき」

私はその日、初めて頬を濡らした。

さらに日は過ぎる。

朝日を浴びるのが嫌になった。日毎に欠ける月に恐怖を覚えた。カーテンを開ける事をやめた。

いつまで経っても、彼女は来ない。またあの巫女の所だろうか。外に出るのをやめた。

図書館の中に、時計の歯車の音だけが響いていた。苛立ちが募る。時計を壊した。

最後の一冊が返却されない。
でも、それが返されれば彼女と会う事はもう無いだろう。
でも、それが返されなければ彼女と会う機会は無いだろう。

駄目だ、待っているだけじゃ何も始まらない。行動を起こさねば。

…でも、何をする?
家に行く?
きっと彼女は巫女の元だろう。そんな場面を見たら、私は。

あぁ、あぁ。

もう何も考えないでいよう。やめよう。もういい。
時間にすべてを任せよう。


そう思ったその瞬間から、私の生きる意味は無くなった。生き甲斐を失ったのだ。生に魅力などもう無かった。


惰性で本を読み続ける。この図書館の本は読み尽くした。何もする事が無い。魔法も必要では無くなった。
使い魔は今日も本を整理し続ける。私は今日も本を読み続ける。色が消えた。


ことん、


扉に設置されたポストに、何かが投函された。誰からだろう。
私は重たい腰を上げ、蜘蛛の巣の張り巡らされたポストへ手を突っ込んだ。

文々。新聞

私がその文字を目にした時には、すでに天狗の姿は無かった。

「…新聞をとった覚えは無いわ」

ぶつくさと文句を垂れながら「号外」と書かれた新聞に目をやった。

霧雨魔理沙氏、死去。

「…え?」

その10文字を、穴が空くほど見つめた。

「…え?」

一瞬にして頭の中が真っ白に凍りついた。

信じられない、信じたくなかった。
もう、そんなにも時間は過ぎていたのか?私はその間、何をしていたのだ?ただ待って、妬んで、それで?

声にならない音が口から漏れる。叫びか喚きか憂か感嘆か。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

狂ったように、いや、狂っていた。狂っていたのだ。
おかしくて、何もかも、おかしくて、私は、私は、私は、




結局、最後の一冊が返される事は無かった。

「嘘つき」

あの時とは違う意味の、だけども同じ言葉を、私は呟いていた。

◇◇◇

夢の回想を終える。
嫌な思い出のはずなのに、とても居心地の良い夢。
微睡みの中、紅茶の香りが鼻を掠める。

すっかり冷めてしまった紅茶。




時間と云うものは、嫌いだ。
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