ましゅまろ短編集
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しゅ…シュールで
ま…まあまあ
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2017年08月28日(月)
【140字小説】(38)
 放課後、あの子がキスするところを見た。
 呼吸することも忘れていた喉元に、フラッシュバックする苦い気持ち。
 慌てて隠れた公衆トイレで全部ぶちまけようとするけれど、隣の個室に誰かが居るから、僕は吐き出せないでいる。



23:28
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2016年08月16日(火)
【無題】(152)


 カーテンが開く度に思う。
 闇に潜む生き物が居るように、光に溶ける生き物達が、生まれたばかりの日だまりに集まっているのを感じる。一体どこから。
 温かな日だまりに漂っては、消えていく。時折、小さな埃が舞い上がり、光と戯れる彼らの姿を、頼りなく目視させてくれるのを、私もまた日だまりの中で、ぼんやりと見つめている。
 不意にカーテンが閉ざされた。無理もない。夏の日差しは強いから。
 日だまりと共に消滅し、影になった彼らは、またカーテンが開かれるその時を、ただ大人しく待っている。
 愛しく、儚い。
 きっと、夏祭りの提灯の灯り。ラムネの瓶から零れた光の粒や、打ち上げ花火の欠片。重さに耐え兼ねた線香花火の先っぽ。すっかり液体になってしまったかき氷。
 いつかの夏休みが、まだそこで息を潜めているのを、私は確かに感じる。
 

06:03
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2016年06月25日(土)
【死体】(51)


 環状線に無理矢理詰め込まれた自動車達から、不穏な空気を感じる。渋滞だ。もう後戻り出来ないが、進むこともままならない。
 こんなはずじゃなかった。
 俺は泣き出しそうなのをこらえ、車に積んだ死体を見る。正確には、箱の中に死体を入れてあるので、透視能力を持たない凡人の俺には箱しか見えないが、それでもやっぱり嫌な気配を背中に感じる。
 よく死んでいる。言葉の使い方として、正しいかどうか分からないが、とにかくよく死んでいる。なんせ、動かない。
 この渋滞だというのに、退屈しのぎにラジオでもなんてワガママも言わないし、今もこうして挙動不審な俺に、さっきから何ジロジロ見てんのよ、なんて怒ることもない。
 もっと医学的なやり方で確認したいが、生憎俺には知識がないし、そとそも運転中なのだ。
 長いドライブになりそうだ。生きた心地がしないが、他にどうしようもない。

 ふぅと溜め息を吐いたとき、電話が鳴った。渋々ハンズフリーで、応対する。

「今どこに居る?」俺に死体を運ばせた張本人だった。「なぜ遺体がない?約束の時間はとうに過ぎたぞ。人も待っている、式の時間も押しているんだ」

 その淡々とした口調から、静かな怒りを感じ取る。俺は観念して、正直に話すことにした。「実は渋滞に巻き込まれてしまいまして。必ずそちらに向かいますので、どうぞ私に構わず、式を始めて下さい」

 言ってから、しまったと思った。火に油だ。
 案の定、怒り狂った相手から、罵詈雑言を浴びさせられた。

「お前は馬鹿か!」俺の申し訳ございませんを、食いぎみに掻き消しながら、電話の向こうの相手が怒鳴り散らす。「霊柩車が来ないで、どうやって葬式を始めるんだ!」

13:48
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2016年06月15日(水)
【ソリティア日和】(123)


 物心ついた頃から、シェルターの中にいるトコにとって、生きた動物は何よりも憧れの強いものであった。というのも、彼女以外は、みんな機械で出来た作り物だからだ。
 体調管理はデジタルドクターが、栄養管理はデジタルシェフが、そしてデジタルティーチャーに教育を受けるといった具合で、彼らはパソコンのデータのみの存在なので、姿形はなく、よってトコだけが生き物であり、人間なのだった。
 独りぼっちの彼女は、ソリティアだけが生き甲斐で、モニター越しに赤と黒のカードをせっせと並び替えては、「友達」や「家族」が居ればきっともっと楽しいことが出来るのにと、見たことのない外の世界を一人で思案するのだった。

 トコが10歳にあったある日、ちょっとした事件がおこる。シェルターの中に、小鳥が迷いこんできたのだ。トコは生まれて初めて見た小さな生き物に、胸がほんわりと温まるのを感じた。
 小鳥は力強く羽ばたき、柔らかく着地しては、足下をつついていた。まじまじとそれを観察した後、賢い彼女は一つ疑問に感じることがあった。


 小鳥を掌に乗せ、その温もりをいとおしく思いながら、パソコンの前に座る。そして、その胸のモヤモヤとした疑問を、ディスプレイ越しに問いかけた。
「少なくとも、小鳥が問題なく生きていられるだけの環境があるのなら、なぜ私はシェルターにいるの?」

 デジタルドクターが、小鳥などいるはずがない、極度の妄想癖、情緒不安定、精神的疾患の疑いありと言う。
 デジタルシェフが、小鳥はいるはずがないけど、もしいるのならば、貴重なタンパク源だから、焼いて食べようと言う。
 デジタルティーチャーは、ただ一言、小鳥を早く外へ出しなさいと言う。

「どこから外へ出すの?」

 再び問いかけたその時、パソコンの前に座っていたトコの背後から、大きな音がした。決して開くことはないと思っていたシェルターの扉が、今開かれようとしている。しかし、完全に開ききることはなく、小鳥を逃がせるだけの隙間ができると、扉はピタリと動作を止めた。

 トコはその隙間から、初めて外の世界を覗き見た。

 外の世界にはーーーーーー。
 荒れた砂地に、扉を完全に開いたシェルターが、所狭しと並んでいた。そして、そのさらに向こうには、微かに緑が、自然があるように見えた。小鳥はきっと、あそこから飛んできたのだろう。
「皆、外へ出たのに、私一人だけがまだシェルターに居ることには誰も気づいていないのね」

 小さく呟きながら、10歳の賢い彼女には、それが一体何を意味するのかよくわかっていた。恐らく、彼女が憧れたような、「友達」「家族」といった生き物同士の繋がりが、長いシェルター暮らしで失われてしまったのだろう。
 だからきっと、彼女へ外へ出ても安全だと声をかけてくれるような親切で思いやりのある人間は居なかったのだろう。
 否、本当に安全ではないのだろう。思いやりの欠如した他人同士、一人と一人が同じ空間で生活したら、その先に何があるのか明らかだった。


 彼女は、少し考えてから、やがて、大人しく小鳥を逃がした。力強く羽ばたいた小鳥が、流れ弾で撃ち落とされたことには気がつかないまま、またパソコンの前に戻った。

 背後でシェルターが閉まりきった音がした。トコは、しばらくぼんやりとディスプレイを眺めていたが、やがて、いつもの調子に戻った。

「こんな日は、やっぱりソリティアだよね」

 ディスプレイが、ソリティアの画面に切り替わった。



11:41
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2016年04月09日(土)
【没個性】(101)

「個性って、一体なんだろう」
 か細い腕で、折り鶴を折っていた小夜子は、ポツリと呟いた。
 小夜子は私の幼馴染みで、生まれつき体が弱く、主に入退院を繰り返すばかりの人生であった。
 私は、折り鶴を折る手を止めずに答える。「考えたこともなかったよ」
「そう」残念そうに、小夜子が言う。「私は最近、そんなことばかり考えるよ」
 いつに無く弱気な小夜子に、私はようやく手を止めて、彼女を見た。小夜子も、私を見ていた。
「前はこんなに痩せていなかったのにとか、昔はどんなに歩き回っても疲れなかったのにとか、そんなことばかり考えるよ」小夜子が、ふぅと溜め息をつく。「どんどん私の個性が失われていく気がして、怖いよ。このままじゃ、無くなってしまう気がする。きっと、音もなく消え去って、同じようにそのまま、人の記憶からも消え去ってしまうのを待つだけなんだ」
 私は、どんな言葉をかけたらいいのか分からなくて、口をつぐんでいる。今更薄っぺらい励ましの言葉なんかかけたところで、なんの足しにもならないからだ。
 小夜子もそれを察したようで、話題を変えようと無理に笑顔を見せた。「最近は、外もすっかり暖かくなったね」
 きっと、小夜子は、私が彼女に愛想を尽かし、この病室を訪れなくなることが怖いのだ。だから、時折媚びるような態度をとる。
 本心を隠し、強引に話題を変えてまで、私を繋ぎ止めようとする。私は、それがとても嫌だった。
「あんた、そんな奴じゃなかったよ」私は、小夜子に吐き捨てる。
 凍りつく小夜子をよそに、私は続けた。「私がうんざりするくらい変な話を続けたり、体に触るからというのも聞かないで走り回ったり、そういう個性的なあんたが好きだったのに。他の誰でもない。あんたが、個性を殺したんだ」
 これ以上言ったらいけないと、どこか冷静な自分にすがる脆い理性を振り払う。私は止まらなかった。
「くだらない鶴なんか作って、なんになるんだ。こんな紙くずで、あんたの病気が治るのか。治らないなら、もっと他に何かあるでしょう」
 なんだこんなもの! と、完成しなかった折り鶴を床に叩きつける。
 失われていく小夜子の個性とは対称的に、私の中に、自分でも気がつかなかった感情が生まれている。それが怒りなのか、悔しさなのか分からずに、ただただ無抵抗な彼女にぶつける。
 貧弱な優越感が、彼女のやわな心をズタズタに引き裂き、その切れ間から溢れる涙に満足すると、私はようやく我に返る。
 ガラス玉のような小夜子の瞳が、ピシッと割れてしまうのではないかと思うほどの涙と共に、彼女が、譫言のように呟いた。
「貴方も、そんな人じゃ、なかったよ」
 
 

19:15
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2016年02月07日(日)
【魚】(95)


 休日のショッピングモールはやけに人が多くて、まるで人間の巣のようだと思った。店内の眩しいほどに鮮やかな色達は、人々の気分を高揚させるようで、行き交う人は皆嬉しそうにしている。
 ここにいる数だけの人生と、それだけのドラマがあるのだと思うと、独り者の俺は少しムシャクシャした。
 遠くで子供が泣きわめいていて、尚更鬱陶しい。
 爆弾でもつけて、爆破してしまおうか。そんな物騒なことを思いながら、俺はワゴンセールのカートを横目で見た。

 そこには、一発屋と言われたアーティストのCDや、一世を風靡した書籍なんかが、雑に詰め込まれていて、どれも二束三文で売られていた。言わば、廃棄する一歩手前。最後の最後の救済手段として設けられたものだということが、一目瞭然である。
 好きじゃない、こういうの。でも、これだけ安いなら……とそこで初めて手を出すに値すると思うような作品があるのもまた事実。その気持ちも分かる。
 でも好きじゃない。こんな、お情けみたいな値段で売られる為につくられた作品なんて、本当はひとつも無いはずなのだ。
 ざっと目を通して、俺は贔屓のアーティストの作品がそこに並んでいないことに安堵する。もう誰かが買ってしまって、偶然そこには無かっただけかも知れないが、とにかく俺は安堵した。

 腹が減ってきてレストラン街を歩いていると、寿司屋の前に生け簀があった。子供が水槽をバンバン叩いていて不愉快だ。水槽の中では、鯛がゆらゆらしていて、そのうち食べられて死ぬのに呑気なもんだなと思った。
 子供が居なくなったのを見計らって、俺は鯛に中指を立てた。深い意味はなかった。

 その時、鯛がぐるりとこちらを向いて「それは、どういう意味だ?」と口を聞いた。
 思いもよらない出来事に、俺は「うおっ!」っと声が出た。魚だけに? と、脳内で自分にツッコミを入れ、恥ずかしくなる。
 鯛はやはりこちらを見ている。
「お前を怖がらせている訳じゃない。僕は知りたいだけなんだ。さっきの小さい人間のように、叩かれることはよくあるが、今お前がやったそれは、初めて見た。どういう意味だ?」鯛が淡々と問い詰める。
 俺は少し迷ったが、「死んでしまえってことさ」と答えた。
 「なるほどな」鯛は真っ直ぐ俺を見ている。「やはり、僕がここに入れられたのは、そういう訳なんだな」
 俺はなにか言おうと口を開いたが、上手く言葉にならなくて、「ごめん」と小さく呟いた。
 「なぜ謝る。お前は使うべき時に、使うべき意味のことをしたまでだ。それもお互いが理解する為に。お前達が使う、言葉というやつはそう言うものだろう?」
 俺は何も言えなかった。
 「なあお前。僕は、大小の違いは分かるが、人間は皆同じに見える。お前、気が向いたらまたそれをやってくれないか。そうしてまた、今日みたいに言葉を交わそう……」
 どこからともなくやってきた子供が、またバンバン水槽を叩いたので、鯛は俺のほうを見るのを止めて、普通の鯛に戻った。

 俺はというと、まだ心臓がバクバクしていて、逃げるように水槽を離れた。また言葉を交わそう? 中指を立てろ? 空腹も忘れて、俺はショッピングモールを飛び出した。

 


06:48
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2015年12月21日(月)
【140字小説詰め合わせ】(118)


『冬空』
遠くでコンコン車の音がして、私は故郷の冬空を思う。雪の降らないこの町で、私はどうしても雪が見たくなった。そんなときは、スノードームを揺すってみる。水族館で買ったスノードームのイルカに、安っぽいラメが降り注ぐ。ああ、あの町をスノードームに閉じ込められたらどんなにいいか。

『屈辱』
鉄壁のヨリコ「あらゆるものを弾きとばす最強の盾をうっかり倒しちゃった。拾おうにも私が弾き飛ばされちゃって拾えないし、困ったわ」矛使いテツオ「俺の最強の矛に任せておけ」スッ、グイッ。テツオ「ほらよ」ヨリコ「そんな!私の最強の盾が!梃子の原理で持ち上がるなんて!」

『私生活』
ミーコはたまに不思議なことを言う。「私、一体どこの誰なんだろうね?」嫌な予感がした。「ミーコはミーコでしょ」面倒なことに巻き込まれたくなくて、私は適当に答えた。「それじゃあ私達、一体どこの誰なんだろうね?」ほーら、やっぱり面倒なことに巻き込まれた。

『ルームシェア』
心霊物件にて。「ほら、陽当たりが最高なんですよ」ベタな三角の布を額に着けた男が、フワフワとベランダに出る。確かに悪くないなと俺は思う。「ね?本当にいい部屋でしょう?私なんか、死んでからも住んでますけど、本当におすすめですよ!」確かに説得力がすごいのは認めるけど、俺ももう入居者なんだよ。

『ドアチャイムで喜怒哀楽』
ドアチャイム 鳴った鳴ったと 開けるドア
おかえりなさいが 言える幸せ
ドアチャイム 鳴った鳴ったと 開けるドア
ピンポンダッシュの 苦々しさよ
ドアチャイム 鳴った鳴ったと 開けるドア
鳴ったチャイムは お隣さんの
ドアチャイム 鳴った鳴ったと 開けるドア
セールス撃退 ストレス発散

21:55
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2015年11月17日(火)
【ミソラの町で】(71)


 未空の町。それは、未だ空が見えない町。
 窓の外の景色はもちろん、家の外に一歩出たときの景色でさえも何故か空が見えることはない。
 本来ならば空があるべき空間には、日がのぼることも、月や星が見えることもなく、常に真っ暗なので、時間の感覚すら失われつつあり、町の人々は町に唯一ある大きな時計台を頼りに生活している。

「もし、あなたは旅の方でしょうか?」
不意に少女の声がして、私は歩みを止めた。「ええ、分かりますか?」
「あなたは杖をお持ちのようですし、足音ですぐに分かりますわ。この町には杖を使うものはいませんから」表情は分からないが、少女の嬉しそうな声が返ってくる。「でも、随分歩き慣れてらっしゃるようですわね、観光ですの?」
 そうだと返事をする前に、時計台の鐘が5時を告げた。見えないので、確認する術はないが、だいぶ時間がズレているような気がする。
「分かっていますわ、正確な時間とは違うのでしょう?もう長いこと旅の方が来られなかったものですから、時間のズレを知る術もなかったのです」
 私は妙に納得してしまう。
「旅の方、空のある生活とはどんなものですの?例えば……今この時間、5時の空は、どんなものですの?」
「……そうだねぇ」

 私はなんと答えるべきか考えてしまう。
 この真っ暗な未空の町でなら、視力などあってもなくても同じこと。目の見えない私でも、受け入れてもらえると思ったから来たというのに。

22:12
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2015年11月05日(木)
【逆説】(154)


バター猫のパラドックスを知っていますか。

猫を高いところから落とすと、必ず足を下にして着地する。

バターを塗ったトーストは、必ずバターが塗られた面を下にして着地する。

それでは、もしもバターを塗ったトーストを、バターを塗った面を上にした状態で猫の背中にくくりつけ、高いところから落とすと……?

もしも猫が足を下にして着地すれば、バターを塗った面は上になったままだし、バターを塗った面を下にして着地すれば、猫は背中から着地することになる。

これがバター猫のパラドックス。


「どっちが下になると思う?」

喫煙所越しに、不意に彼が問いかけたので、私はちょっと考えてしまう。
とは言え、最終学歴高校卒業(後に自動車学校卒業)の私に、理系で大学院まで出た彼を納得させるような答えは到底 出せそうにない。

「難しく考えなくていいよ、さらっと2択で」

さらっと。私は頭の中で実験を思い浮かべる。
高いところから落とされるバタートーストをくくりつけられた猫。
スタッ。猫が足を下にして着地する。

「あっ、猫が勝った」

「そう」微笑ましいと言わんばかりの顔をしながら、彼が煙を吐き出す。
「答えは色々あるんだけどね。俺も始めは猫だと思ったし……でも、ある学者が『着地しない』って言い出したんだよ」

「猫が顔から落ちるとか?」

「『バターの面が下になったり、猫の足が下になったり、そうやって回転し続けて、着地しない』って言うんだ」彼は2本目の煙草に火をつけるかどうか迷っている。「あくまで机上の空論に過ぎないけど、面白い考え方だよね」

結局、彼は2本目を吸い始めたので、私はまた頭の中で実験をしてみる。
底の無い空間を、回転しながら落ちるバター猫は、もう着地をしてくれなかった。



07:32
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2015年10月16日(金)
【フロアガイドマニアの苦悩】(66)

 アレックス・シアラーの作品「魔法があるなら」をご存知だろうか。ひょんなことから、ある親子がデパートで生活を始めると言う物語だが、私はまだ読んでいない。
 まるで私の為の物語だと迷わず購入し、家の本棚に置いて、読もうと思えばすぐに手が届くところにあるのに、かれこれ1年くらい手付かずのままである。
 誰しもそんな本のひとつやふたつ、あるのではないかと思う。

 私は、デパートが好きだ。デパートに限らず、大きなショッピングモールも好きだ。何が好きって、何でも手に入れることができるような、あの満たされた気持ち。鳴りやまない迷子のお知らせのアナウンス、お客様の声と表したクレーム受け入れ口、そこに貼り出されている下らないやり取り、近所のスーパーには無い食材……。挙げたら切りがないが、私がなによりも愛しているのは、なんといってもフロアガイドである。
 フロアガイドを広げながら歩くショッピングモールは、まさに宝探しと言っても過言ではない。フロアガイドは宝の在処を記した宝の地図。だから、私は行く先々のフロアガイドをコレクションしている。
 同じお店のフロアガイドでも、店舗の入れ換えと共にデザインが変わったりするので、一枚手に入れたくらいで安心してはいけない。足蹴く通い詰め、絶えずチェックする必要がある。

 マニアックな話はこの辺にして、私が唯一、デパートで許せないことをお話ししよう。私は、エレベーターガールの存在が憎くて堪らない。
 エレベーターガールがいることで、常にそのエレベーターは一人分の重さのハンデがあるし、密室に他人がいることでストレスを感じるし、そもそもボタンくらい自分で押せる。かと思えば、エレベーターガールが乗っているエレベーターのボタンだけ、なにやら複雑な作りになっていて、エレベーターガール専用みたいになっているのも気にくわない。

 最近はエレベーターガール自体が減ってきているようだが、そのまま忘れ去られてしまうのも何だか悔しい。ライバルを失うようで少し寂しい。だから私は、定期的にエレベーターガールの出てくる作品を書くことにしている。

 ジンベエザメしかり、エレベーターガールしかり、私は絶滅危惧種に弱いのだ。
 

18:42
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