ましゅまろ短編集
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2014年12月17日(水)
【点字ブロックを踏みながら】(68)

街頭演説が煩い。
盛り上げ役が笑顔で手を振っている。
演説役が力強く何かを訴えている。
道行く人は誰も見ていない。
みんな何かに忙しそうに、ただ足早に去っていく。

今 誰も見ていないという事実を、私だけが見ている。

点字ブロックを踏みながら、
ただただ熱心に何かを訴えているその集団に少しだけ強い風が吹いた。

悪人が住みよい社会をつくるには、
ただ善人がなにもしないでいてくれればそれでいい
ーーどこかで聞きかじった言葉が頭を巡る。

見なかったことにしよう。

私もその他大勢のように、何かに忙しそうにしていよう。

そうして 一日の終わり、眠る前のひとときに
私は今日もなにもしない善人だったと、
そんなのは美徳でもなんでもないのに、
少なからずはみだし者ではなかったことに安心しよう。


私は悪くない。
みんなと同じものから目を背けただけ。



20:11
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2014年12月12日(金)
【曇天】(98)


冬の海は、気紛れなクラゲをふよふよと上昇させた。

曇った水面をキラキラと反射する不機嫌な太陽が、少しだけ暖かい。

私が小舟に乗り、島を離れてすぐのことだった。


「やあ」と、クラゲが言う。「僕は今 最高にハッピーなんだ」

「どうして?」私が聞くと、クラゲは「友達が出来たんだ」と答えた。

嬉しそうなクラゲの隣には、ビニール袋が浮かんでいた。

「コイツ、無口でさ」クラゲが続ける。「何か喋ればいいのに」

クラゲがあんまり嬉しそうなので、私は真実を告げるべきなのか否か途方に暮れてしまう。

「ウミガメは、クラゲと間違えてビニール袋を食べちゃうことがあるらしいよ」私は、それとなく話してみた。「おかしいよね」

クラゲはそれはもう大ウケで、ふよよふよよとカサを揺らし、手足を震わせた。「ウミガメって、バカだなー」

私も笑った。笑うしかなかった。


長旅を終えたウミドリも、束の間の休息。

キラキラした水面をビニール袋が遮断して、波に合わせていったり来たりするのを、ただ静かに見つめて居た。

01:11
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2014年12月01日(月)
【あっという間】(73)


雨が降っていた。

水溜まりを踏んでしまった スーツ姿のサラリーマンが短く「あっ」と声を漏らすと、

水浴びでもしようと近づいていた小雀が「あっ」と驚いて ぱたぱたと飛んでいってしまい、

その小雀をおもちゃにしようと考えていた野良猫は「あっ」と 後を追いかけ、

野良猫と仲良くなろうとわざわざ猫じゃらしを持参してきた女の子が「あっ」と寂しげに呟くと やがて来た道を引き返し、

女の子のストーカーが 「あっ」と慌てた。

あっという間。

水溜まりを踏んでしまったサラリーマンの目には……

傘で視界が遮られていた少年が
迫り来るトラックに気づかずに
横断歩道を渡っているのが見えていた。

少年の「あっ」が聞こえることはなかった。





19:56
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2014年11月25日(火)
【日常】(89)

今日 横断歩道で擦れ違った外国人のレズビアンのカップルが、やけに幸せそうだった。
私の日常に、不意に飛び込んでくる非日常に、偏見はしないけれど、うまく笑うことができなかった。

その時私は、バーバパパのスリッパを履いている足元を見つめながら、ぼんやりとそんなことを思い出していた。

「聞いてる?」電話の向こうの母の声で、現実に引き戻された。

聞いているけれど、頭に入ってこなかった。
ガンで、祖父は余命を宣告されたという。

生きている私に、不意に死という非日常が飛び込んでくる。

非日常?
いや、多分 今も昔もどこかで日常的にあることなのに、初めて自分の身近に起こるものだから、そんな風に思うのだろう。

そんなこと、あるわけがないと。
映画とか、ドラマとか、そう作り話の設定に過ぎないのだと。

足元のバーバパパが笑っている。
そうだよ、そんなことあるわけがないよと笑っている。

私は、またうまく笑うことができなかった。

00:06
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2014年11月03日(月)
【時間をください。】(49)

「お姉ちゃんの時間、ちょっとちょうだい」

コンビニへの道を歩いていると、「時間をください。」と書かれたプラカードを持った女の子が、小走りでアタシのところに来た。
新手の宗教の勧誘かもしれないと、初めは無視していたけれど、女の子があんまり必死なので、少しだけ話を聞くことにした。

「ありがとう」女の子は少しだけ笑った。「でも、あんまり時間がないの。一緒に影踏みしよう。そこの公園で、ね?」

なぜか白昼堂々 影踏みをすることになったアタシ。

ルールはよく知らないけど、とにかく女の子の影を踏めばいいかと、女の子の後ろにくっついて近くの公園に向かう途中 アタシはギョッとした。


この子、影がない。


恐怖のあまり、体が強ばって、うまく動けないアタシ。
体が震え、冷や汗が止まらない。

「どうしたの、お姉ちゃん」
女の子が、首だけでぐるりとアタシの方を見た。

アタシはまばたきもできずに、ただただ立ち尽くしている。

「たったの2分かあ、5分は欲しかったなあ〜」

時計を見て、けらけらと笑う女の子。
笑いながら首がぐるりぐるりと回っている。

金縛りみたいに体が動かない。
背後から車のクラクションが聞こえる。

女の子の首が、ぐるりぐるり。
狂ったようなクラクション。

ぐるりぐるり。
金切り声みたいな急ブレーキ。

アタシの体がはね飛ばされるまで、人生で一番長い2分間だった。




15:50
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2014年10月25日(土)
【同調圧力】(78)


「この街も、ずいぶんとすっきりしましたね」 これは、家内が口にする言葉の中でも最大級の皮肉だった。「外に出てご覧なさい。お隣の街どころか、お隣の国まで見えそうですよ」
鏡の前をうろうろしながら、ワンピースを探している家内をよそに、暢気に珈琲をすすっていた私は、こう問いかけた。「なあ、新聞はどうした?」
「新聞ですって!」家内はヒステリックに叫ぶ。「新聞なんて、とっくに透明になったじゃないですか!食器だって、家具だって!服もそうですよ!全部 プライバシーがどうのこうのって!」
私は溜め息混じりに頷くしかなかった。「そうだったな」

科学の進歩は、時に人間の想像を遥かに越えたものを生み出す。近年 普及し始めた“透明化装置”が正にそれだ。他人に見られたくないものーーー例えば長年書き綴っている秘密の日記に、この“透明化装置”から出る特殊な光線を当てると、誰にも見つからないように透明にしてしまうのだ。必要になった時は、解除ボタンを押せばよかったので、万が一 置いた場所を失念してしまっても、問題はなかった。
初めはよかった。部屋がスッキリして見えるので、どこかのサラリーマンが、仕事中に奥さんに秘蔵のコレクションを捨てられるなんてことは無くなったし、皆 その程度の使い道しか頭になかった。

おかしくなってきたのは、指名手配犯が、自分自身を透明化したとのニュースが流れた頃だった。氏名、年令、住所、身長や体重などの個人情報を隠すために、人々はどんどん自分自身を透明化していった。
さらには職場、家、思い出の場所と、エスカレートしていき、今現在 透明化していないのは、どうやら 私と家内とこの家くらいだ。
世間の人々は、私が思う以上にたくさんの秘密を抱えていたようで、外に出れば、ぐるっと地平線や水平線が見渡せた。もしかしたら、もはや地球上で私達だけなのかも知れない。

「早く済ましちゃって」ワンピースを着た家内が、私に吐き捨てる。互いに歳を重ね、皺も増えたが、月に一度 夫婦並んで写真を撮る 秘密の習慣だけは変わらなかった。そしてなにより、私達が透明化しない最大の理由でもある。
珈琲を飲み干し、ネクタイを締め、スーツの襟を整えたら、予め 用意していた三脚とカメラの前に立った。セルフタイマーのスイッチを押した家内が、渋々 私の横に立つと、カウントを始めた。

私は思う。この秘密の習慣も、恐らくこれが最後だ。
そして、透明化しないでいる日も、今日が最後だ。
透明化していない私達には、どんどん住みづらくなっているこの街で、ついに私達にも致命的な問題が起こったからだ。

「私、その写真はいらないから」家内が、呟く。
正直、私だって同じ気持ちだ。
透明な服を着た、全裸同然の老夫婦の写真なんて……。


10:57
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2014年10月10日(金)
【カチカチと紐】(111)


瞼が重たくなってきた、そろそろ眠ろう。
欠伸をしながら、部屋の電気を消す為に紐を探ったけれど
私の腕は一向に紐に出会えない。
「おやおや、不思議なこともあるもんだね」
紐が無くなっていた。紐というか、あの根元のカチカチする部分から無くなっていた。
「おやおや、不思議なこともあるもんだね」
もう半分寝ぼけているようで、おんなじ言葉しか出てこない。
多分 眠すぎる脳みそが、新しい言葉を組み立てることを止めて、直前の言葉を使い回すという手抜きをしているのだろう。
平日の回転寿司屋みたいだ。

それにしても、カチカチと紐はどこに行ったんだろう。
困った。私は真っ暗じゃないと眠れない体質なのだ。
こんなことになるなら、紐をサンドバッグに見立てて
「シッ!シッ!」って言いながら
ボクサーの真似なんかしなきゃよかった。

仕方がないのでアイマスクを着けて、いよいよ布団に潜り込む。
布団に入ってからアイマスクをしたらいいのに、
眠すぎてそんなことにすら頭が回らない。
長い手探りの後、やっとのことで布団を掴んで、
ロケットみたいに頭から滑り込む。
その時、手に何か触れた。

紐だ。なんだ、先に布団に入ってたんだ。
迷うことなく引っ張ると、カチカチという確かな手応えを感じた。
布団とアイマスクのすき間から、まだ蛍光灯の明かりが見えた。

「おやおや、不思議なこともあるもんだね」
今、私は何を消したんだろう。
カチカチと紐が、スゥスゥと寝息を立てていた。









22:41
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2014年10月08日(水)
【父からの手紙】(76)

トンネルを抜けるとそこは雪国だった……うろ覚えだけど、そんな言葉が頭をよぎった。もう3回目だ。
東北新幹線に乗り込み、私の故郷に辿り着くにはいくつもトンネルを抜けなければいけないので、トンネルを抜けると雪国だし、抜ける前も雪国なのだった。
ケータイも電波が入らないし、文庫を読めば乗り物酔いしてしまうので、しかたなく窓の外を眺めていた。薄曇りの空に、大雪で埋もれた山が不機嫌そうに見える。カモシカの足跡が、同じく雪で埋もれた森の中へと伸びていた。
またトンネルに入った。自分の顔が、窓に鏡みたいに反射して見えて不愉快だ。目元が父に似てると良く言われた。

私は父が苦手だった。とにかく厳しい父だった。
酒をのんで暴れることも、理不尽な暴力を振るわれることも、仕事もせずだらしないわけではなかった。むしろ逆だ。くそがつくほど真面目で重度のしぶちんだった。
なぜこんなにも、私の中に壁があるのかわからないが、とにかく父の前ではその日学校であったできごとすら、話すのをためらってしまうのだった。
もしも家族ではなく、他人として会ったならば、私は生涯 関わることはなかったのではないかとすら思う。

公務員の父は、土日によく家族でドライブに連れていってくれた。
しぶちんの父の財布のひもが緩む唯一の時で、私は素直に楽しんでいた。
帰り道に、後部座席で遊び疲れた私がうつらうつらしていると、バックミラー越しに父と目が合うことがあった。
言葉はなかったけど、「楽しかったか?」と父の目が語りかけていた。
私は急いで目を閉じて、狸寝入りを決め込んだ。
むず痒い記憶だ。

思い出した時、丁度 トンネルを抜けた。

懐かしい雪国、私の故郷だ。

私は鞄を探り、父からの手紙を取り出した。
とはいうものの、3枚のうち、2枚半は母からだった。
要約すると、「また帰ってこい」って感じのことが、手短に書かれている。

がたん、と大きく揺れたので、酔いそうになった。
なるべく下を見ないように、急いで手紙をしまう。

返事は出さなかった。
心配しなくても元気だと伝えたいだけなのに、
何度書いても、言葉に詰まってしまうのだ。

仕方ないので、この連休に帰省を決めたという訳だ。

到着を告げるアナウンスで、席を立つ。
駅まで迎えに来てくれているとメールがあった。
元気だったとか、心配事もないだとか
きっと、目をみれば分かるだろう。そこに言葉はいらないはずだ。



11:02
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2014年10月03日(金)
【母からの手紙】(69)


優くんへ

元気ですか?
独り暮らしには慣れた?
友達はできた?
ご飯はちゃんと食べてる?

お母さんとお父さんは相変わらずよ。
インコのぴいちゃんも、元気よ。
年のせいかしら、ちょっと白内障ぎみだけど、
餌はよく食べてるの。

カメのトータスも相変わらずよ。
亀は歩くのがのろいなんて嘘ね。
すばしこくて、散歩のあとは捕まえるのが大変なの。

お母さんは趣味のガーデニングをやったり、
羊毛細工をやったり、毎日楽しくやってるよ。

そうそう、ついにスマホを買ったんだけど
ちんぷんかんぷんなのよ。

全然使いこなせなくて、まだ電話すらできないのよ。

お父さんはちょっと出世して、お仕事も大変みたい。

優くんもお仕事大変なのかしら。
体は大事にするのよ、病気や怪我に気を付けてね。

それじゃあまた。

お母さんより

追伸 以上の内容をスマホのメールで送るにはどうしたらいいの?
早急にお返事ください。




19:15
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2014年09月25日(木)
【エンドロール】(59)



「なにしてんだよ?」死神が立っていた。
私は包丁を握っていた。「……夕飯の支度だよ」

「お前、長くねぇぞ」と、死神が言った。
何が?と私が聞く前に、「人生のエンドロール、全然長くねぇぞ」と死神が続ける。

へー、人生にエンドロールがあるんだ。
「人生にもエンドロールはあるんだぞ」死神はまた、私が聞く前に答えた。

「見るか?」と、死神が始めて私に問いかけたので、
私は「見たい」と答えた。

「部屋を暗くしろ、そのほうが雰囲気出るぞ」
私は頷き、死神のいう通りにした。

ゆったりと穏やかなBGMが流れ始めた。
絶妙にダサいけど、私の人生らしくていいかもしれない。
「田舎のホームセンターみたい」私は呟く。「嫌いじゃないけど」
死神は「そうだろう、俺が選んだんだぞ」と偉そうに胸を張った。

しばらくして、エンドロールがスタートした。
両親の結婚から始まり、私の誕生、成長、日常なんかが買いつまんで説明されていた。
「あ、そうそう。間違いがあったら教えてくれよな 」死神が言った。
「俺、あんまり得意じゃないんだ」
「よくできてると思うよ」と、私は答えた。

続けて、私の学生時代の友人の名前が流れてきた。
「私、友達いないからさ…… 」と、呟く途中に友人についてのエンドロールが終わった。あまりの短さに言葉も出ない。
「サブリミナルかよ」死神が言った。
「サブリミナルかもしれないね」私は頷く。
そのくらい一瞬のことだった。

最後に、数年前に事故死した主人との思い出が流れた。
出逢いも、始めてのデートも、プロポーズも、結婚も、夫婦喧嘩も、
私は直視できなくて、いつのまにか俯いて涙を流していた。
「もう見たくないよ……」私はやっとの思いで呟いた。「あの人が死んだとこ、2回も見たくないよ……」

死神が、エンドロールを止めた。
泣きじゃくる私の背中を優しく擦って、微笑んでいる。
「あんたの旦那もさ、お前が死んだような顔するの、見たくないって」
ハッとして、私は死神を見た。
「夕飯の支度するやつの顔じゃなかったぞ」死神が続ける。「旦那にあんたのエンドロール見せられないの嫌だろ?」
私は何度も何度も強く頷いた。

「元気だせよ」死神がふよふよと宙に漂っている。「エンドロールにはまだ早すぎるだろ、サブリミナルじゃなくなるくらいもっと友達作れよ」
私は俯いた。「ありがとう」

「じゃあな」死神がベタな鎌を担いで、私に背を向けて消えた。

「友達かあ」
友人の名前のサブリミナルに、「死神」って書いてあった気がする。








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