ましゅまろ短編集

2016年06月25日(土)
【死体】


 環状線に無理矢理詰め込まれた自動車達から、不穏な空気を感じる。渋滞だ。もう後戻り出来ないが、進むこともままならない。
 こんなはずじゃなかった。
 俺は泣き出しそうなのをこらえ、車に積んだ死体を見る。正確には、箱の中に死体を入れてあるので、透視能力を持たない凡人の俺には箱しか見えないが、それでもやっぱり嫌な気配を背中に感じる。
 よく死んでいる。言葉の使い方として、正しいかどうか分からないが、とにかくよく死んでいる。なんせ、動かない。
 この渋滞だというのに、退屈しのぎにラジオでもなんてワガママも言わないし、今もこうして挙動不審な俺に、さっきから何ジロジロ見てんのよ、なんて怒ることもない。
 もっと医学的なやり方で確認したいが、生憎俺には知識がないし、そとそも運転中なのだ。
 長いドライブになりそうだ。生きた心地がしないが、他にどうしようもない。

 ふぅと溜め息を吐いたとき、電話が鳴った。渋々ハンズフリーで、応対する。

「今どこに居る?」俺に死体を運ばせた張本人だった。「なぜ遺体がない?約束の時間はとうに過ぎたぞ。人も待っている、式の時間も押しているんだ」

 その淡々とした口調から、静かな怒りを感じ取る。俺は観念して、正直に話すことにした。「実は渋滞に巻き込まれてしまいまして。必ずそちらに向かいますので、どうぞ私に構わず、式を始めて下さい」

 言ってから、しまったと思った。火に油だ。
 案の定、怒り狂った相手から、罵詈雑言を浴びさせられた。

「お前は馬鹿か!」俺の申し訳ございませんを、食いぎみに掻き消しながら、電話の向こうの相手が怒鳴り散らす。「霊柩車が来ないで、どうやって葬式を始めるんだ!」

13:48
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